転職エージェントは、求職者が無料で使えて、書類の添削から面接対策、条件交渉まで手伝ってくれるサービスです。ただし、エージェントの収入は入社が決まったときに企業が払う成功報酬で、この仕組みを知っているかどうかで、提案の受け取り方が変わります。
伝える情報を先に整理し、提案を自分の優先順位で選び直す。この2つを押さえれば、エンジニアの転職で頼れる相手になります。
転職全体の流れと期間はエンジニアの転職の流れと期間にまとめています。エージェントを使う部分に絞って、登録から内定後までを順に説明します。
エージェントは何をして、なぜ無料で使えるのか
厚生労働省のリーフレットは、職業紹介を、求人と求職の申込みを受けて、求人者と求職者の間の雇用関係の成立をあっせんすることと説明しています。求人サイトや求人情報誌は、別の区分(募集情報等提供)です。
求職者が無料なのは、法律でそう決まっているからです。職業安定法は、有料職業紹介事業者が求職者から手数料を取ることを原則として禁じています(第32条の3第2項)。
費用は、採用が決まった企業が紹介手数料として払います。厚生労働省の委託調査(令和3年6月、職業紹介事業者621事業者が回答)では、「研究職・技術職・専門職」を扱う124事業者のうち66.9%が、求人企業から取る手数料率を「30%以上40%未満」としていました。
仮に年収600万円で料率35%なら、企業が払う額は210万円です。エージェントは、あなたの入社が決まらなければ収入になりません。
同じ調査では、紹介した人が早く辞めたときに手数料の一部または全部を返す制度が「ある」と答えた事業者が59.4%(618事業者)でした。返す期間(最長)は「4〜6か月」が44.4%、「3か月」が42.9%です(394事業者)。
つまりエージェントの関心は、「決まること」と「辞めないこと」の両方にあります。多くの場面で、あなたの利益と重なります。
ただ、提案が「決まりやすい求人」に寄る場面もあります。だから、提案を受ける側ではなく、選ぶ側に立つことが前提になります。
ルールで守られている点も、先に知っておくと安心です。厚生労働省と都道府県労働局のリーフレットから、求職者に関わる4つを挙げます。
- 求職の申込みは、法令に違反する場合を除いて受理される。登録できたことと、合う求人が出ることは別の話
- 労働条件(業務内容、賃金、就業場所、労働時間など)は、原則として最初に接触する時点までに、書面やメールで示される
- 社会通念上相当と認められる程度を超える「お祝い金」は出せない
- 自らの紹介で就職した人(無期雇用)に、就職の日から2年間、転職の勧奨はできない
事業者の許可の有無、手数料、就職者数、就職後6か月以内に辞めた人の数、返戻金制度は、厚生労働省が運営する「人材サービス総合サイト」で調べられます。2025年4月からは、紹介手数料率の実績の公開と、違約金規約の明示も義務になっています。
登録の前に決めておく4つのこと
面談が話の早い場になるかどうかは、登録前の準備で変わります。やることは4つです。
1. 希望の優先順位を3つに絞る
レバテックのIT人材白書2026(IT人材3,000人、2025年11月)で、転職経験のある1,648人が企業選びで重視したのは、給与57.2%、業務内容37.0%、勤務地23.1%、事業内容22.6%の順でした。
全部を満たす求人は少ないので、譲れない条件と、譲れる条件を分けて書き出します。年収のほかに、技術領域、開発体制、リモートの可否や出社の頻度も候補です。
2. 職務経歴書の下書きを作る
完成版でなくて構いません。担当範囲、使った技術、チーム規模、成果の4点が書いてあれば、面談で話が早く進みます。
構成はエンジニアの職務経歴書の書き方に、生成AIを業務で使った経験の書き方は職務経歴書にClaude Codeをどう書く?にまとめています。
3. 応募させたくない企業と、情報の扱いを決める
在職中なら、現職、取引先、関連会社に情報が回らないよう、面談の最初に伝えます。過去に自分で応募した企業も、重複を避けるために伝えておきます。
4. 個人情報の取扱いを確認する
厚生労働省の委託調査(令和3年6月、過去2年以内に求職経験のある2,560人)では、民間人材サービスを使ったときの個人情報の取扱いについて、「十分理解して同意した」が29.0%、「同意を求められた記憶がない」が25.4%でした。
職務経歴書が企業に送られる前に、自分の確認が入るかどうかを、最初に聞いておきます。
初回面談で伝えること、聞くこと
面談は、対面のほか、オンラインや電話で行われることが多く、これまでの職歴、転職の目的、希望条件を詳しく聞かれます。求人の紹介は、面談当日に出ることも、後日メールや電話で届くこともあります。
エンジニアの場合、次の7点を具体的に伝えると、紹介の精度が上がります。
| 伝えること | 具体的に言う内容 | 伝える理由 |
|---|---|---|
| 経験の中身 | 言語、フレームワーク、クラウド、DB。担当したフェーズ(要件定義から運用まで)、チーム規模、役割 | 紹介できる求人の幅と、書類の書き方が決まる |
| 伸ばしたい技術領域 | やりたい領域と、避けたい領域 | 経験が同じでも、行き先が分かれる |
| 開発体制の希望 | 自社開発、受託開発、客先常駐のどれを望むか。チームの人数、レビューの有無 | 募集の中身と体制が、希望と合うかを絞れる |
| 条件の優先順位 | 年収の下限と希望、勤務地、リモートの可否、出社の頻度 | 提案を断るか受けるかの基準になる |
| 転職の時期 | 在職中か、退職したい時期、入社できる時期 | 求人の選び方と、日程の組み方が変わる |
| 他社の状況 | 応募中の企業、登録している他のエージェント | 面接日程の重複と、同じ求人への二重応募を防ぐ |
| 応募させたくない企業 | 現職、取引先、過去に応募した企業 | 情報が現職に回ることを防ぐ |
面談では、伝えるだけでなく、担当者を見極める質問もします。
- 私の職種と年収帯で、いま紹介できる求人は何件ありますか
- 提案する求人は、どの条件に合うと考えて選びましたか
- 応募先ごとに、技術面接やコーディングテストの有無と傾向を教えてもらえますか
- 連絡の手段と頻度は、どうなりますか
求人数は、非公開求人を含むかなど、数え方がサービスごとに違います。サイトの数字ではなく、自分の条件での件数を聞くほうが、比べやすくなります。
担当者が技術用語を理解しているか、条件の背景を質問してくるかも見ます。質問が少ないまま求人だけが次々に届くときは、希望が伝わっていない可能性があります。
求人紹介の受け方:提案を自分の基準で選び直す
紹介された求人に応募するかどうかは、自分で決められます。迷う求人は、応募の前に、確かめてから決めます。
厚生労働省の委託調査(令和3年6月)で、紹介会社を使ったことのある1,171人に、過去3年間の問題や困りごとを聞いています。「特に問題はない」が32.7%で最多、次いで「求人企業の募集条件と実際の就業条件が違った」が31.7%でした。
「応募したらすでに求人が終了していた」は17.8%、「応募しても企業から返事がなかった、または遅かった」は17.2%です。
条件が違ったと答えた371人に、どこが違ったかを聞くと、「場所」45.6%、「給与」42.9%、「職務・業務内容」35.8%でした。仕事の中身、給与、勤務地は、紹介の段階で、書面やメールの文字にしてもらいます。
求人を提案されたら、次の5点を確かめます。
- 配属先と仕事の中身(開発か、運用・保守か)
- 技術スタックと開発体制(チームの人数、レビューの仕組み)
- 契約形態と勤務地(自社内で働くのか、客先に常駐するのか、出社の頻度)
- 給与の内訳(月給、賞与、固定残業代の有無)
- 募集の背景(増員か欠員か、何人採るか)
求人票そのものの読み方は、エンジニア求人票の見方で説明しています。
見送る求人は、理由を一言添えて返します。「技術スタックが希望と違う」「勤務地が合わない」と伝えると、次の提案が絞られます。
応募後に辞退すると、企業の準備が無駄になります。見送るかどうかは、応募の前の検討段階で決めます。
書類添削と面接対策を使い切る
書類は、応募先ごとに直します。エージェントは、応募先が求める人物像を企業から聞いているので、「この企業に出すなら、どの経験を先頭に置くか」を聞くと、添削が具体的になります。
書類を企業に出すとき、担当者が推薦の文章を添えるケースもあります。
面接対策では、模擬面接、応募先の面接の傾向、面接官の役職、選考の回数を聞きます。エンジニアなら、技術面接やコーディングテストの有無と形式も聞きます。
AIの使用が認められるかどうかは、企業ごとに違います。コーディングテストでAI使用OKの企業は何を見る?も参考にしてください。
面接日程の調整は、エージェントが代行します。在職中で、複数社の日程が重なるときほど、頼る場面です。
面接のあとは、手応えと不安な点を、その日のうちに担当者へ伝えます。不合格でも、企業からのフィードバックを聞けるのは、エージェント経由で応募する利点です。
聞かれる質問への答え方は、エンジニアの面接でよく聞かれる質問で扱っています。
採用担当者は、エージェント経由の応募をどう見ているか
企業の側も、エージェントを主要な採用の入口として使っています。レバテックのIT人材白書2026(企業のIT人材採用担当者1,000人、2025年11月)では、いま活用している採用チャネルは、掲載型の求人媒体45.8%、転職エージェント43.2%、スカウト型の求人媒体34.4%の順でした。
今年度に新たに注力しているチャネルがあると答えた397人では、転職エージェントが27.2%で最多でした。
エージェントの解説では、エージェント経由か直接応募かによる選考の有利・不利はないとされています。見られるのは応募方法ではなく、経験やスキルが企業のニーズと合っているかです。
運営会社の採用支援の現場では、エージェント経由の応募に、職務経歴書と、担当者のコメントが添えられることがあります。書類選考の担当者は、その2つが同じ人物像を描いているかを読みます。
書類には「設計から運用まで担当」とあるのに、担当者のコメントが別の強みを推していると、面接で確かめる質問が増えます。担当者に渡す職務経歴書と、自分が口頭で話す内容は、そろえておきます。
エージェント経由の面接でも、見られるのは本人の言葉です。志望動機が担当者の文章の借り物に聞こえると、深掘りの質問で答えが止まります。
もう一つ、同じ白書は、企業側の採用の課題として「現場との要件すり合わせ」を最多(31.2%)に挙げています。エージェントが聞いた採用要件と、現場が欲しい人物像に、ずれが残ることがあります。
だから、求人票とエージェントの説明が、現場の期待と同じとは限りません。面接の逆質問やカジュアル面談で、現場の人に直接、仕事の中身と期待を聞きます。
企業にとって、紹介手数料は小さくない費用です。内定を辞退されると、企業は採用活動をやり直すことになるので、辞退の連絡は早さが礼儀になります。
内定から入社まで:条件交渉と退職の進め方
内定が出ると、まずエージェントに連絡が入ります。承諾の期限を確かめ、迷うときは回答を保留して、担当者に相談します。
内定の回答期限は1週間程度が一般的とされ、延ばせるかどうかは企業しだいです。複数社の選考が並んでいるときは、他社の結果が出る時期を、早めに担当者へ共有します。
年収や入社日などの条件交渉は、エージェントが代行します。交渉の前に、年収の下限と、内訳(月給、賞与、手当)の希望を、数字で伝えておきます。
最終的な条件は、労働条件通知書などの書面で確かめます。見るべき項目は、オファー面談で確認することにまとめています。
退職の伝え方と日程は、エンジニアの退職の伝え方とタイミングで扱っています。入社日は、引き継ぎの期間を見て、エージェントに調整してもらいます。
エージェントによっては、入社後の相談にも乗ってくれます。就職の日から2年間は、紹介した側からの転職の勧奨が禁じられているので、連絡が来続けることもありません。
複数登録、担当変更、断り方
複数登録は2〜3社から始めて、1〜2社に絞る
初めは2〜3社に登録し、面談や支援の質を比べて、最終的に1〜2社に絞る使い方が勧められています。IT特化のエージェントと、総合型のエージェントを組み合わせる方法もあります。
併用していることは、各担当者に伝えます。伝えてもマイナスにはならず、面接日程の重複や、同じ求人への二重応募を防げます。
同じ企業に別々のエージェントから応募すると、応募管理ができていない印象を与えます。エージェント名、企業名、応募日、状況の4列の一覧を作り、毎週更新します。
担当を変えたいとき
担当者は変更できます。担当者への電話やメール、または運営側の問い合わせフォームで依頼します。
依頼の前に、何がどう合わないのかを、担当者本人に具体的に伝えます。「希望と違う求人が続く」「連絡の頻度が少ない」と伝えれば、改善されることもあります。
改善されない場合は、変更を申し出ます。理由と、どうしてほしいかを添えると、次の担当者の手配に生かされます。
断り方は、場面ごとに時期が違う
| 場面 | 伝える時期 | 伝え方 |
|---|---|---|
| 求人を見送る | 応募の前、検討の段階 | 理由を一言と、次に探してほしい条件を添える |
| 紹介そのものを止めたい | 決めた時点ですぐ | 利用をやめる意思を伝える。伝えないと、求人の紹介が届き続ける |
| 面接を辞退する | 分かった時点で早く | 担当者に伝える。応募後は企業の準備が進んでいるので、できるだけ避ける |
| 内定を辞退する | 内定の通知から1週間以内 | 担当者に伝える。お礼とおわびを添え、理由を伝える |
求人を見送るときの伝え方の一例です。
ご紹介いただいた△△社の求人ですが、技術スタックが希望と異なるため、今回は見送ります。
今後は、バックエンドの開発職で、リモートが週3日以上できる求人を優先して探していただけますか。
今日からできること
- 希望の優先順位を3つ書き出し、譲れる条件と譲れない条件に分ける
- 職務経歴書の下書きを、担当範囲、使った技術、チーム規模、成果の4点で作る
- IT特化のエージェント1〜2社と、総合型1社を選び、面談を予約する。比べるときはおすすめの転職エージェントも使えます
- エージェント名、企業名、応募日、状況の一覧を作る
- 面談で、「自分の条件で紹介できる件数」と「提案の理由」を聞く
エージェントを使うかどうかではなく、自分の優先順位を持って使えるかが、結果を分けます。



