エンジニアの求人票は、「仕事内容」「必須・歓迎要件」「年収」「開発体制」「選考フロー」の5つの欄を、書いてあることと書いていないことに分けて読むと、実態が見えやすくなります。求人票は契約書ではなく募集広告なので、気になる点は面接で聞き、内定後の労働条件通知書で書面に残すところまでを1セットで考えます。
求人票を作る採用側の事情を知っておくと、どの欄に癖が出るかが読めるようになります。
求人票は契約書ではなく募集広告である
東京都産業労働局の「ポケット労働法2026」は、就職までの流れを法律的に、募集は労働契約の申込みの誘引、応募は申込み、会社からの採用内定通知は承諾と整理しています。求人票は、契約の前にある「申込みの誘い」にあたる文書です。
厚生労働省の「確かめよう労働条件」は、求人票の労働条件がそのまま契約内容になるわけではないとしています。ただし、面接や入社時の話し合いで合意して変更したと認められる特段の事情がなければ、求人時の条件が確定したものになると考えられる、という説明です。
同じページが挙げる大阪高裁の裁判例(1990年)も、別段の合意などの特段の事情がない限り、求人票記載の労働条件は雇用契約の内容になると判断しています。
求人票と面接での説明が食い違ったときは、同じページによれば、なぜ違うのかを確認するのが第一です。単純な事務上のミスのこともあれば、求人票の記載が実際の条件ではないこともある、と整理されています。
2022年10月施行の改正職業安定法で、求人企業には求人情報の的確な表示が義務づけられました。厚生労働省の求人企業向けリーフレットは、虚偽の表示と誤解を生じさせる表示を禁じ、募集の終了や内容の変更があれば速やかに更新して、正確で最新の状態に保つよう求めています。
それでも、ずれはなくなっていません。厚生労働省がハローワークの求人について公表した令和6年度の「求人票と実際の労働条件が違う」という申出等は、3,297件でした。
内容別(1件に複数の内容があれば別々に計上)では、賃金929件、就業時間661件、職種・仕事の内容591件の順に多くなっています。
要因別では、「求人票の内容が実際と異なる」が1,478件、「求人者の説明不足」が932件、「求職者の誤解」が364件でした。記載の誤りだけでなく、説明不足や誤解からもずれが生まれているので、聞くことで埋められる差があると読めます。
企業は求人票をどう作るのか:本音が出る4か所
求人票は採用担当者が書きますが、中身は現場の情報です。エンジニア向け求人サービスのpaizaは、採用企業向けの解説で、開発チームの状況、採用したいポジション、採用後に任せたい業務は、エンジニアへのヒアリングや共同作業で固める必要があり、採用担当者だけでこなすのはかなり難しいと書いています。
運営会社の採用支援の現場でも、求人票は採用担当者が現場責任者に聞き取ってまとめ、現場の確認を経て公開する流れが基本です。そのため、現場の整理が進んでいるかどうかが、求人票の具体性に出ます。
特に本音が出やすいのは、次の4か所です。
- 募集背景:増員、欠員補充、新規立ち上げのどれかで、入社後に期待される役割が変わります
- 必須要件の数と具体性:理想像を並べたのか、選考で見る基準に絞ったのかが分かれます
- 給与の幅:複数のポジションや等級をまとめて書くと、幅が広くなります
- 仕事内容の動詞:「携わる」「推進する」だけだと、担当範囲が決まっていないことがあります
paizaは同じ解説で、避けたい書き方として、メインで扱う言語やフレームワークの記載が多すぎること、給与幅が「300万円〜900万円」のように広すぎること、リーダーの仕事から若手の仕事まで全部書いてあること、「ご経験に合わせた業務をお願いします」としか書いていないことを挙げています。
企業側の手引きでも、何をするのか分からない求人票は、良くない書き方とされているわけです。読む側は、これらに当てはまる欄を、面接での質問に変えていきます。
仕事内容の欄:動詞と担当範囲を読む
仕事内容では、何を作るのか、どこまで担当するのか、日々の仕事の中身は何かの3点を読みます。
曖昧な書き方と具体的な書き方を、例で並べます。
曖昧:Webサービスの開発・運用に携わっていただきます。
具体:自社SaaSの決済機能について、設計・実装・リリース後の障害一次対応までを担当します。配属は決済チーム(5名)です。
後者のように、プロダクト・工程・チームの規模が書かれていれば、現場と詰めた跡があると読めます。
開発職の求人でも、運用保守や問い合わせ対応が仕事の中心というケースはあります。開発・運用・調整の比率は、面接で数字で聞きます。
もう1つ見たいのが、仕事や勤務地が将来変わる可能性です。職業安定法で募集時に明示する事項には、従事すべき業務の内容(変更を含む)と、就業の場所(変更の範囲を含む)が入っています。
「配属は入社後に決定」「プロジェクトによる」とだけ書かれているときは、配属の決め方と、変更の範囲を聞きます。
契約形態の欄では、雇用契約なのか、業務委託なのか、派遣労働者としての雇用なのかをはっきりさせます。厚生労働省のリーフレットは、フリーランス(委託)の募集と雇用契約の募集を混同した表示を、誤解を生じさせる表示の例に挙げています。
必須要件と歓迎要件の欄:数と粒度で優先順位が分かる
paizaの求人情報の見方は、必須要件を応募にあたって満たす要件、歓迎要件を満たしていればアピールになる要件と説明しています。歓迎要件は、当てはまらなくても応募できるとされています。
つまり、応募の線引きは必須要件で見ます。数と書き方から、編集部では次のように読みます。
- 必須が3〜5項目で具体的:選考で見る基準が絞られている可能性があります
- 必須が10項目を超える、または年数だけが並ぶ:現場の理想像をそのまま載せた可能性があります
- 歓迎に新しい技術が並ぶ:今の課題か、これから取り組みたい方向を示しています
「実務経験5年以上」のように年数が書かれている要件は、年数そのものより、その年数で何を担当してきたかを見られていると考えて準備します。経験が浅い人の入口の状況は、ジュニアエンジニアはいらない?で整理しています。
面接では、「必須要件のうち、入社後の最初の3か月で一番使うのはどれですか」と聞きます。書類上の項目のうち、本当に重いものが分かります。
年収の欄:幅・内訳・モデル年収を分けて読む
年収は1つの数字ではなく、幅、内訳、モデル年収の3つに分けて読みます。
幅は、下限と上限のあいだで何が違うかを聞きます。「この幅は等級でいくつ分ですか」「同じ職種で最近入社した方は、幅のどのあたりで決まりましたか」といった聞き方です。
内訳では、月給に含まれるものと、賞与・昇給の決まり方を見ます。賞与が「年2回」とあっても、固定なのか業績連動なのか、直近の支給実績はどうかは、書かれていないことが多い項目です。
モデル年収には、書き方のルールがあります。厚生労働省のリーフレットは、社内で特に給与が高い人の給与を、全員の給与であるかのように例示することを、してはならない表示としています。
同じリーフレットは、「給与400万円〜600万円」に、同職種社員の平均を例示した「モデル給与555万円」を添える書き方を、適切な例としています。モデル年収は、誰の何人分の平均なのかを聞きます。
試用期間も年収に関わります。試用期間は募集時の明示事項に含まれ、リーフレットは「月給20万円(ただし、試用期間中は月給19万円)」のように、期間中の条件を分けて書く例を示しています。
最後に、転職後の賃金の実態です。厚生労働省の令和6年雇用動向調査では、転職入職者の賃金は前職と比べて「増加」が40.5%、「減少」が29.4%、「変わらない」が28.4%でした。
幅の上限は全員が届く数字ではないと考え、自分がどこに位置づくかを聞きます。
残業代の欄:固定残業代・裁量労働制・年俸制
固定残業代は、法律で禁止されていません。東京都の「ポケット労働法2026」によると、判例は、通常の労働時間に当たる部分と割増賃金に当たる部分を判別できること、割増賃金に当たる部分が労働基準法で計算した額以上であることを条件にしています。
求人票への書き方は、厚生労働省のリーフレットが3点を求めています。
- 固定残業代を除いた基本給の額
- 固定残業代の時間数と金額の計算方法
- 固定残業時間を超えた分の割増賃金を、追加で支払うこと
リーフレットの例では、「月給32万円」とだけ書くのは不適切で、「基本給25万円、固定残業代7万円(時間外労働の有無に関わらず15時間分、超えた分は追加で支給)」と書くのが適切とされています。
「年収600万円(固定残業代含む)」のように、含まれる額と時間数がない書き方は、表示ルールに沿っていない可能性があります。そのときは面接で、基本給の額と固定残業の時間数を聞きます。
固定残業の時間数も見ます。厚生労働省の解説では、時間外労働の上限は原則として月45時間・年360時間で、固定残業時間がこれを超えて設定されているときは、実際の残業の運用を具体的に聞きます。
裁量労働制の求人は、別の読み方をします。専門業務型は20の業務に限られ、エンジニアに近いものでは「情報処理システムの分析又は設計の業務」「ゲーム用ソフトウェアの創作の業務」が入っています(東京都)。
厚生労働省の求人向けの留意点では、裁量労働制であることと、「○時間働いたものとみなされます」というみなし時間を、求人に書くよう求めています。始業終業の時刻を指定して厳格に適用すると、裁量労働制が適用されなくなる、とも書かれています。
年俸制も確認します。東京都の資料は、年俸制を採用すれば残業代を支払わなくてよいというのは誤解で、割増賃金を含めるなら内訳をあらかじめ明らかにする必要があると説明しています。
開発体制・技術スタックの欄:書いてあることと、書いていないこと
paizaの解説では、エンジニア向けの求人票で見られる項目として、開発言語・フレームワーク・データベースと、開発環境(チームの特徴、支給される機材、教育制度、組織構成)が挙げられています。
書かれやすいのは、言語やフレームワーク、支給機材、教育制度です。書かれていないことが多いのは、意思決定とレビュー、当番、リリース頻度、企画への関わり方です。
paizaは、エンジニアが企画段階から参加するのか、別の部署が決めた仕様に沿って開発するのか、分業で一機能を担当するのかが、応募者にとって重要な情報だと書いています。
技術名が多すぎるときは、メインで扱うものを聞きます。「メインの言語は何で、全体のどのくらいを占めますか」と聞けば、全部入りの記載の中から、実際の比重が分かります。
AIによる開発を打ち出している求人なら、使う範囲とレビューの体制を聞きます。運営会社が自社でAIと開発する中で起きた失敗は、AI開発の失敗事例9つにまとめています。
開発体制は、採用側でも伝えるべき情報とされています。paizaは、ある程度の規模なのにエンジニアが極端に少ないと、応募者は「退職者が続いているのだろうか」と想像してしまうので、課題感があれば隠さず共有するよう、採用担当者に勧めています。
選考フローと働き方の欄:回数・期間・会う人を読む
選考フローでは、回数と期間に加えて、誰と会うかを見ます。採用担当者や一部の社員としか会わないまま内定が出ると、応募者は職場の雰囲気が分からず不安になる、とpaizaは書いています。
paizaは、採用担当者向けの対策として、開発チームとの座談会やオフィス見学を挙げています。現場のエンジニアと話す場は、応募者から依頼してよいものです。
技術試験の形式も聞きます。コーディングテストでAIの使用を認める企業の例は、コーディングテストでAI使用OKの企業は何を見る?にあります。
働き方の欄では、数字の定義を聞きます。厚生労働省のリーフレットの例には「時間外労働:あり(月平均20時間)」とありますが、月平均の対象が全社なのか、配属チームなのか、直近何か月なのかで、意味が変わります。
リモートワークは頻度と条件、フレックスはコアタイムの有無を、求人票の書き方と実態に差がないか確かめます。
求人票の外で確かめる4つの情報源
求人票以外に、実態を知る手段が4つあります。
1つ目は、厚生労働省の職場情報総合サイト「しょくばらぼ」で、職場情報の開示に積極的な企業の残業時間や有給休暇取得率、平均年齢などを検索・比較できます。載っていない企業もあるので、見られる企業から確かめます。
2つ目は、上場企業の有価証券報告書で、金融庁の資料が示す「従業員の状況」には、従業員数、平均年齢、平均勤続年数、平均年間給与が入っています。職種別ではなく、会社全体の平均として読みます。
3つ目は、企業の技術ブログ、登壇資料、GitHubです。使う技術や開発の進め方を、社員が自分の言葉で書いている場合は、求人票より具体的です。
4つ目は、カジュアル面談や座談会で、現場の人に直接聞くことです。転職エージェント経由なら、配属先や残業の実態を担当者を通じて聞ける場合もあります。
エージェントの選び方は、おすすめの転職エージェントにまとめています。
面接で聞く質問の早見表
ここまでの内容を、欄ごとの質問にまとめます。
| 欄 | 気になる書き方 | 聞き方の例 |
|---|---|---|
| 募集背景 | 「事業拡大のため」だけ | 「このポジションは増員ですか、欠員補充ですか。直近1年でチームに入った人と抜けた人は何人ですか」 |
| 仕事内容 | 「開発・運用に携わる」 | 「入社後3か月の担当は何ですか。開発・運用・調整の比率はどのくらいですか」 |
| 必須要件 | 10項目以上、年数だけ | 「必須のうち、最初の3か月で使うのはどれですか」 |
| 年収 | 幅が広い、モデル年収のみ | 「この幅の中で、私の経験はどこに位置づきますか。モデル年収は何人の平均ですか」 |
| 残業代 | 「固定残業代含む」 | 「固定残業の時間数と金額は。直近半年の月平均残業は何時間ですか」 |
| 開発体制 | 技術名の羅列 | 「メインの言語は何ですか。レビューと当番はどう回していますか」 |
| 選考 | 面接回数のみ | 「現場のエンジニアと話せる機会はありますか。技術試験の形式は何ですか」 |
答えが具体的に返ってくるかも、判断材料になります。即答できる会社は、現場の情報が採用担当者まで届いていると読めます。
内定が出たら、労働条件通知書と求人票を並べる
労働条件は、契約を結ぶときに書面で明示される決まりです。厚生労働省のQ&Aによると、書面で交付される事項には、労働契約の期間、就業の場所・従事すべき業務(変更の範囲を含む)、始業・終業の時刻や休日、賃金、退職に関する事項が入っています。
2024年4月からは、就業の場所と業務の変更の範囲も明示事項に加わっています。
求人票と並べて見て、違いがあれば理由を聞き、書面の訂正を依頼します。求人時に明示した条件を変更する場合は、求職者に変更内容を明示することが、職業安定法で求められています。
ハローワークの求人であれば、求人票と実際の労働条件が異なるときの相談窓口として、ハローワーク求人ホットライン(03-6858-8609)が案内されています。
承諾前に確認する項目の全体は、オファー面談で確認することにまとめています。面接そのものの準備は、エンジニアの面接でよく聞かれる質問と答え方を参照してください。
面接前にできる5つの下準備
- 気になる求人票を1つ選び、「仕事内容」「必須要件」「年収」「開発体制」「選考」の5欄に、書いてあること・ないことを1行ずつ書き出します
- 年収の欄に、固定残業代、裁量労働制、年俸制の記載がないかを確かめます
- 書き出した中から、聞きたいことを3つ選び、前の表を参考に質問にします
- しょくばらぼや、企業の技術ブログで、求人票にない情報を2つ集めます
- 面接で聞いた答えを、終わった当日のうちにメモし、内定後に労働条件通知書と照らします



