エンジニアが転職後に感じるギャップとして調査で多く挙がるのは、残業の多さ、ドキュメントや体制、評価の見えにくさです。どれも能力や運ではなく、入社前に聞けば確かめられる種類の項目です。
防げるタイミングは3つあります。応募前に条件の優先順位を決め、面接で現場の実態を聞き、内定後に書面で確かめることです。
転職の進め方全体はエンジニアの転職の流れと期間、求人票の欄ごとの読み方はエンジニア求人票の見方で扱っています。
調査で見る:転職後のギャップはどこで起きているか
ITエンジニアの数字から見ます。キッカケクリエイションが2025年7月に行ったインターネット調査は、退職経験のあるITエンジニア438人が対象です。
入社後に想定との差が「あった」と答えた人は、「非常にあった」27.4%と「ややあった」47.5%を合わせて74.9%でした。4人に3人が、入社後に何かしらの差を感じています。
差があったと答えた328人に内容を聞くと、次の項目が上位でした。
- 残業が想定より多かった:45.7%
- ドキュメントがまったく整備されていなかった:41.2%
- オンコール対応の頻度が説明より多かった:31.7%
- チームの雰囲気が合わなかった:29.6%
- 評価制度が不透明だった:26.5%
どれも、仕事の中身ではなく、働く環境と運用の実態に関する項目です。面接で具体的に聞けば、答えが返ってくる種類のものでもあります。
同じ調査で、退職を決めた理由の1位は「給与が市場価値より低いと知った」の40.2%、2位は「技術改善がされないと悟った」の31.1%でした(複数回答)。
調査は退職経験者へのインターネット調査で、転職エージェント事業者が実施したものです。エンジニア全体を代表する数字ではない点は、読むときに頭に置いてください。
職種を問わない数字:転職後の賃金と「悪いギャップ」
エンジニアに限らない調査でも、似た傾向があります。NEXERとRSGが2024年8〜9月に転職経験者500人へ行ったインターネット調査では、47.0%が「悪い意味でのギャップを感じたことがある」と答えました。
自由回答で多かったのは、残業や仕事量の多さと、面接で聞いていた話との食い違いでした。
同じ調査で、転職前にギャップを防ぐ工夫をしていた人は18.2%です。具体例は、口コミサイトで社員の評判を調べることや、面接で詳しく質問することでした。
つまり、ギャップを感じた人は多い一方で、事前の確認に動いた人は2割に届いていません。確かめる行動そのものが、差になりやすい部分です。
賃金の面でも、転職すれば上がるとは限りません。厚生労働省の令和6年(2024年)雇用動向調査では、転職入職者の賃金は、前職より増加した人が40.5%、減少した人が29.4%でした。
失敗の型は4つ:入社前の項目で分けて見る
調査と、運営会社の採用支援の現場で見てきた入社後の食い違いを重ねると、後悔のもとは次の4つに分けられます。
| 失敗の型 | 起きやすいずれ | 防げる場面 |
|---|---|---|
| 働き方のずれ | 残業時間、オンコール、リモートの実態 | 面接・内定後の書面 |
| 仕事内容のずれ | 開発より運用保守が中心、配属が想定と違う | 求人票・面接 |
| 環境のずれ | ドキュメント、レビュー文化、技術改善の余地 | 面接・カジュアル面談 |
| 評価・報酬のずれ | 昇給の基準、年収の内訳、市場価値との差 | 内定後のオファー面談 |
人間関係のずれも調査には出ていますが、入社前に確かめるのが難しい項目です。そのため、上の4つを先につぶして、残る不確実さを小さくするのが現実的な考え方です。
どの型も、「入社前に誰に何を聞けば分かったか」を後から振り返れます。次の節から、タイミングごとに具体的に見ていきます。
応募前に防ぐ:辞めたい理由を、条件の優先順位に変える
転職で一番多い失敗は、辞めたい気持ちが先にあり、何を変えたいのかが決まらないまま動き出すことです。
不満を書き出したら、現職で解決できるものと、環境を変えないと解決しないものに分けます。後者だけが、転職で手に入れたい条件になります。
条件は、譲れないものを2〜3個に絞ります。全部を満たす職場はほとんどないため、順位がないと、内定が出たときに判断できなくなります。
たとえば「残業が月20時間以内」「自社サービスの開発に関わる」「評価基準が明文化されている」のように、入社後に確認できる言葉にしておきます。
SESから自社開発のように環境を大きく変える場合は、変わるものと変わらないものの整理が重要です。進め方はSESから自社開発へ転職する方法にまとめています。
求人の探し方や条件の整理を一緒に進めたいときは、おすすめの転職エージェントの面談を使う方法もあります。第三者に条件を言葉にしてもらうと、優先順位が整いやすくなります。
面接で防ぐ:実態を聞くための質問
面接は、会社に選ばれる場であると同時に、会社を確かめる場でもあります。聞くこと自体は、減点にはなりません。
聞き方で変わるのは、答えの具体性です。「残業はどのくらいですか」より、「直近3か月で、チームの残業が一番多かった月は何時間くらいでしたか」と聞くと、実際の数字が返ってきます。
ほかにも、次のように聞けます。
- 「障害が起きたとき、一次対応は誰が、どの時間帯に担当しますか」
- 「ドキュメントは、新しく入る人が自分で読んで動ける状態ですか」
- 「評価は、どの資料をもとに、誰が決めますか」
- 「最近入社した方は、最初の3か月で何を担当しましたか」
質問例を増やしたいときは、エンジニアの面接でよく聞かれる質問の逆質問の節も使えます。
さらに、前述の調査で入社前に欲しい情報として多かったのは、サンプルコードやリポジトリの確認(43.0%)、1日の体験就業(36.6%)、技術スタックと開発環境の詳細な開示(35.7%)でした(ギャップがあった328人への設問)。
会社によっては、カジュアル面談や現場メンバーとの面談、技術ブログの共有といった形で、近いことができます。依頼してみる価値は十分にあります。
採用する側の視点:企業も、入社後のミスマッチを避けたい
運営会社の採用支援の現場では、企業側も入社後のミスマッチをできるだけ避けたいと考えています。早期に退職されると、採用にかけた費用も、受け入れた現場の時間も戻らないためです。
そのため、採用担当者は、候補者が現場の実態を聞くことを歓迎する場合が多いです。働き方や体制について具体的に質問してくる人は、入社後を現実的に考えていると受け取られます。
一方で、面接の場では、企業も良く見せたい気持ちがあります。残業や運用の負担のように、言いにくい項目は、聞かれなければ詳しく話されないことがあります。
正直な答えを引き出すには、次の3つが有効です。
- 数字と期間を指定して聞く(「直近3か月」「最も多かった月」など)
- 良い面と大変な面を、両方聞く(「この仕事で一番大変なのはどこですか」)
- 現場メンバーと話す機会を頼む
採用担当者も、現場の実態を全部把握しているわけではありません。現場責任者や、近い職種のメンバーと話せると、同じ質問でも答えの精度が上がります。
企業側が入社後を気にしている点は、候補者にとっても有利に働きます。確認の質問は、遠慮せず、数字つきで聞いて構いません。
内定後に防ぐ:書面で確かめ、口頭の説明を残す
内定が出たあとが、最後の確認の機会です。厚生労働省の「確かめよう労働条件」によると、会社は労働契約を締結するときに、労働条件を明示する必要があります。
賃金、就業の場所と業務(その変更の範囲を含む)、始業・終業時刻、残業の有無、休日などは、書面で交付する事項に入っています。ただし昇給に関する事項は除かれます。労働者が希望すれば、出力して書面にできる形であれば、メールなどでの明示も認められています。
つまり、面接で聞いた条件が、書面に載っているかを確かめられます。口頭の説明と書面が違うときは、承諾の前に、理由を確認します。
確認する項目は、オファー面談で確認することに10項目でまとめています。年収の内訳、試用期間中の条件、配属、評価と昇給は、特にずれが出やすい項目です。
回答期限は、会社と相談できます。迷う点が残っているときは、その点を整理して相談し、判断に必要な時間をもらいます。
入社後に後悔したとき:選択肢は3つ
準備をしても、入社後にずれが見つかることはあります。そのときの選択肢は、すぐ辞める、待つ、社内で変えるの3つです。
まず、ずれの種類を分けます。法令に触れうる労働条件の違いや、心身に影響が出ている状態なら、早く動く理由になります。そうでない仕事内容や環境のずれは、手を打てる余地があります。
| 選択肢 | 向いている状況 | 先にやること |
|---|---|---|
| すぐ辞める | 労働条件が書面と大きく違う、心身に影響が出ている | 書面と実際の差を記録し、労働局などに相談する |
| 待つ | 慣れの問題か、改善の見込みが確認できている | 期限(3か月など)と見直す基準を決める |
| 社内で変える | 仕事内容や配属、役割に不満がある | 上長に具体的な希望を伝え、異動や担当変更を相談する |
辞める場合の手続きも確認しておきます。大阪労働局によると、期間の定めのない労働契約は、いつでも解約の申入れができ、申入れの日から2週間で終了します。
就業規則に退職の定めがあるときは、原則としてそれが適用されます。極端に長い申入れ期間は、無効とされる場合もあるとされています。
どの選択でも、感情が強い日に決めないことが大切です。何が、いつから、どのくらい違うのかを記録してから決めると、次の判断も説明も楽になります。
短期間で辞める場合、次の選考では理由を聞かれます。在籍年数ごとの見られ方は、エンジニアの転職は何年目が見られる?で整理しています。
今日からできること
最後に、今日から動ける行動を並べます。転職を考え始めた段階でも、決まった後でも使えます。
- 辞めたい理由を紙に書き出し、「現職で解決できるもの」と「環境を変えないと解決しないもの」に分けます
- 譲れない条件を2〜3個に絞り、確認できる言葉(数字や仕組み)に書き換えます
- 面接用の質問を、残業・オンコール・ドキュメント・評価の4項目で、数字つきで3〜5個作ります
- 気になる企業に、現場メンバーとのカジュアル面談を依頼します
- 内定が出たら、労働条件を書面で受け取り、面接で聞いた内容と照らし合わせます
条件の整理や求人の絞り込みを、第三者と進めたい場合は、おすすめの転職エージェントの面談を1〜2社使うと進めやすくなります。使い方は転職エージェントの使い方にまとめています。
転職の後悔は、確かめる項目を先に決めておくだけでも、かなり小さくできます。



