SESから自社開発への転職は、できます。ただし、自社開発は求人の数が限られ、選考で「現場で何を判断してきたか」を問われるため、経験の説明を整えずに受けると苦戦しやすい転職です。
分かれ目は、SESにいたかどうかではありません。自分が決めた範囲を、書類と面接で具体的に説明できるかです。
レバテックが2025年11月に企業の採用担当者1,000人へ行った調査では、エンジニア採用で重視する点の2位が「現職や前職での業務内容」(26.9%)でした。会社の種類より、業務の中身が見られています。
SES・受託・自社開発は、契約も仕事の決まり方も違う
3つは、約束している中身と、お金の入り方が違います。違いを先に表にします。
| SES(客先常駐) | 受託開発 | 自社開発 | |
|---|---|---|---|
| 約束している中身 | 技術者の作業の遂行(準委任が一般的) | 成果物の完成(請負が中心) | 自社のサービスを作り、運営し続けること |
| お金の入り方 | 作業の提供に対する対価 | 納品した成果物に対する対価 | サービスの売上 |
| 仕事の範囲の決まり方 | 案件ごとの作業として切り出される | 仕様と納期に沿って決まる | 事業の目標から優先順位をつけて決める |
| 得やすい経験 | 複数の現場、技術と業界の幅、顧客の環境への適応 | 要件から納品までの工程、納期と品質の管理 | 企画から運用までの一貫、改善の繰り返し |
| 広がりにくい場合がある経験 | 設計や企画など、決める側の経験 | サービス公開後の運用と改善 | 複数の業界・顧客の現場 |
契約の違いは、IPAの講演資料「システム開発の健全化に向けて」が、「情報システム・モデル取引・契約書」をもとに整理しています。請負は成果物を予定どおり完成させることに、準委任は専門家としての注意義務を果たしながら業務を遂行すること自体に、対価を払う契約です。
同じモデル契約では、企画や要件定義は準委任、ソフトウェア設計やプログラミングは請負を基本の型とし、仕事の段階ごとに契約の型を分けています。契約の型は、会社の種類だけでなく、仕事の性質でも決まります。
厚生労働省のガイドは、請負を「労働の結果としての仕事の完成を目的とするもの」と説明しています。そのうえで、請負の形式でも、発注側が働く人へ直接指示を出す実態があれば、労働者派遣にあたる(いわゆる偽装請負)としています。
IPAの資料でも、準委任で進めるアジャイル開発で、発注側が業務の進め方を指示すると偽装請負になりうるかどうかが、論点として挙げられています。
つまり、客先常駐の働き方の実態は、契約の名前ではなく、誰が仕事の指示を出しているかで決まります。この点は、あとで求人を見るときに、面接で聞く質問の材料になります。
準委任は作業の遂行を約束する契約なので、仕事は案件ごとの作業として切り出されやすくなります。編集部では、決める側の経験は、意識して取りに行かないと積みにくい構造があると見ています。
SESや受託は、エンジニアの入口としても機能しています。エンジニア未経験者(新卒を除く)を採用している企業は、システム開発関連会社(SIer・SES・派遣・受託開発など)で49.2%、IT関連の事業会社で30.0%でした(レバテック、企業の採用担当者1,000人、2025年11月)。
複数の現場で、技術や業界の違いに対応してきた経験は、自社開発でも使えます。使えるかどうかは、説明の仕方で変わります。
「難しい」と言われる理由は4つ
転職エージェントのGeeklyは、SESから自社開発への転職が難しいとされる理由を、3つ挙げています。
- 事業の売上を背負う役割なので、ビジネスの視点を含む即戦力が期待されやすい
- 求人数が絞られる一方で、待遇の良さから応募が集まりやすい
- 主体性、チームでの連携、最新技術やクラウドへの対応が求められ、経験が足りないと見られやすい
4つ目として、編集部では、志望理由が他の応募者と似て聞こえやすいことを加えます。
採用担当者が重視する点には、「キャリアビジョン」(24.4%)、「自社への志望動機」(22.5%)、「転職理由」(20.7%)が入っています。転職者側の回答では、直近の転職理由の上位が「収入アップが見込めないため」(31.1%)、「スキルアップが見込めないため」(26.0%)、「希望する業務内容に携われないため」(19.8%)でした(レバテック、転職経験者1,648人)。
どれも多くの人が挙げる理由なので、同じ言葉だけでは、他の応募者と区別がつきません。区別をつけるのは、自分の現場の具体的な場面です。
市場の数字では、dodaの転職求人倍率が、2026年8月でエンジニア(IT・通信)12.04、全体2.86でした。倍率は、doda会員の転職希望者1人に対する中途採用の求人数です。
エンジニアの求人は全体として多く、難しさの正体は、求人の総数ではないと考えられます。自社開発という限られた枠に応募が集まりやすいことと、その枠で求められる説明の水準が高いことが、重なっているためです。
Zennに投稿された体験記では、SESの客先常駐で働いていた新卒2年ほどのエンジニアが、2か月の活動で10社を受け、5社から内定を得ています。移った先は大手の自社開発企業で、年収は350万円から500万円になったと書かれています。
きっかけは、使っている技術がレガシー化し、キャリアが止まることへの焦りだったそうです。書類は「何をしたか」ではなく「何を達成したか」を、数字・技術名・担当範囲の3点で書き直しています。
1人の体験ですが、直したのが書類の書き方だった点は、ほかの人にも当てはめられます。
採用する側は、会社の種類ではなく「判断の履歴」を探している
エンジニア採用で重視する点は、次の順でした(レバテック、企業の採用担当者1,000人、複数回答)。
- コミュニケーション能力:30.7%(過去3年連続で1位)
- 現職や前職での業務内容:26.9%
- キャリアビジョン:24.4%
- 希望条件:23.2%
- 自社への志望動機:22.5%
コーディング・技術力は15.6%でした。技術力が見られていないのではなく、技術を使って何を決め、どう動いたかが、書類と面接で先に読まれていると考えられます。
運営会社の採用支援の現場では、書類を読む採用担当者は、会社の種類で合否を決めるより、案件の欄から次の3点を探します。
- 担当範囲:どこまでが自分の仕事だったか
- 判断:どんな場面で何を選び、その理由は何か
- 結果:チームと利用者に何が変わったか
客先常駐の経歴は、案件名、使用技術、「〜に従事」の列挙になりやすく、3点が読み取れないまま終わることがあります。読み取れない書類は、面接に呼ぶ理由が弱くなります。
採用側の疑問と、それに答える欄は次のように対応します。
| 採用側の疑問 | 書類のどこで答えるか | 面接で確かめること |
|---|---|---|
| 何を任されていたか | 担当範囲 | 「どこまでを自分で決めましたか」 |
| なぜその判断をしたか | 判断の理由 | 「ほかの案は考えましたか」 |
| チームで何をしていたか | 役割、レビュー、調整 | 「意見が分かれたとき、どうしましたか」 |
| なぜ自社開発なのか | 志望動機 | 「いまの現場では、何が足りませんか」 |
| 入社後に伸びるか | 学習、個人開発 | 「直近で身につけたことは何ですか」 |
評価される経験の作り方:現職で足せる5つ
経験は、転職活動を始めてから探すより、いまの現場で足せるものから足すほうが、早く書類に載せられます。足す経験と、示せる力、始め方の例を表にします。
| 足す経験 | 示せる力 | 現職での始め方の例 |
|---|---|---|
| 設計・レビューへの参加 | 判断の理由を言葉にする力 | 担当機能の設計案を自分で書き、レビューの場で理由を説明する |
| 改善提案 | 課題を見つけて動かす力 | 手作業や再発する不具合を一覧にし、1件を提案して前後の数字を残す |
| テストの自動化、ビルドやリリースの手順化 | 品質と速度に責任を持つ力 | 手動で繰り返している確認を、スクリプトやCIに置き換える |
| 顧客や他チームとの調整 | 要件を聞き、優先順位をつける力 | 依頼の背景を聞き取り、対応する順番と理由を書面に残す |
| 現場の外の成果物 | 自走力と技術選定の説明力 | 個人開発や技術記事で、選んだ理由と結果を公開する |
現場の守秘義務に触れる情報は出さず、手順や考え方と、数字の変化だけを残します。
SESでは、現場によって動かせる範囲が違います。いまの現場でできないことは、所属会社の担当者に、次の案件の希望として伝えます。
次の案件の相談では、技術名だけでなく、どの工程に関われるか、自分で決める場面があるかを聞きます。技術名より、関われる工程と決める場面のほうが、あとで書ける経験の中身を左右します。
Geeklyは、成功のポイントとして、キャリアの棚卸し、GitHubを使ったチーム開発やCI/CDなど技術力を示せる成果物、志望動機の工夫を挙げています。現場の外の成果物は、現場で足せない経験を補う手段です。
個人開発でAIを使ったときの見せ方は、AIで作ったポートフォリオは評価される?にまとめています。
職務経歴書の見せ方:SESの1案件を書き直す
SESの案件を書くときは、「どこで何をしたか」より、「どこまで自分で決めたか」を軸にします。架空の案件で、書き換えの例を示します。
書き換える前です。
○○業向け受発注システムの機能追加に従事。Java、Spring Boot、PostgreSQL。詳細設計、実装、単体テストを担当。
書き換えた後です。
- 背景:受発注の締め処理で、担当者が毎月3時間かけて手作業で突き合わせをしており、入力ミスが月に数件あった
- 担当:5人チームで締め処理の自動化機能を担当。要件の聞き取りから、詳細設計、実装、単体テストまで
- 判断:突き合わせの条件を、画面の設定ではなく設定ファイルで持つ案を提案した。条件の変更が月に1〜2回あり、そのたびにリリースが必要になるのを避けるため
- 結果:担当者の作業が3時間から10分になった。稼働後3か月で入力ミスの報告はなかった。レビューで指摘された境界値の扱いは、テストケースを追加して対応した
前者は、担当範囲も判断も結果も読み取れません。後者は、同じ案件を、背景・担当・判断・結果の4つで書いています。
4つの欄の書き方は次のとおりです。
- 背景:現場で困っていたことを、時間や件数の数字で書く
- 担当:チームの人数と、自分の仕事の境界(どこからどこまでか)を書く
- 判断:選択肢と、選んだ理由を書く。理由が書けない場合は、まだ判断していない可能性がある
- 結果:数字と、その測り方を書く。測っていない場合は、測っていないと書く
客先の名前や詳細を出せないときは、業種、システムの目的、規模(ユーザー数やチームの人数)で示します。書き方の全体は、エンジニアの職務経歴書の書き方に詳しく書いています。
AIコーディングツールを使った経験を書くときの型は、職務経歴書にClaude Codeをどう書く?を参照してください。
面接で聞かれる「なぜSESから自社開発か」の答え方
この質問は、SESから移る人によく聞かれます。答えは、経験、学び、広げたいこと、その会社である理由の順で組み立てます。
Geeklyは、経験が浅い人は成長意欲や学びを、経験が豊富な人は自社開発を選ぶ理由と事業への貢献を伝えるよう勧めています。いずれも、自分の経験から話を始める点は同じです。
答えの例です。
現在は金融向けシステムの開発支援で、詳細設計から単体テストまでを担当しています。受発注の自動化では、変更の頻度を踏まえて設定ファイルで持つ案を出し、リリースの回数を減らせました。この経験で、作る側が決める面白さを実感し、企画の段階から利用者の反応を見て改善を続ける仕事に広げたいと考えています。御社の(サービス名)では(具体的な機能や課題)に、自分の経験が生きると考えています。
避けたい答えの例です。
SESでは決められた作業しかできず、成長できないと感じたためです。
前の現場への不満で終わる答えは、入社後も同じ不満を言うのではと見られやすいと、編集部では考えます。事実が同じでも、「次に広げたいこと」に言い換えて話します。
面接で聞かれやすい質問と、見られている点、準備を表にします。
| 質問 | 見られている点 | 準備 |
|---|---|---|
| なぜSESから自社開発へ移りたいのか | 理由の具体性と、前の現場への向き合い方 | 経験、学び、広げたいことを3文で書く |
| 現場で、自分で決めた場面はどこか | 判断の範囲と理由 | 職務経歴書の「判断」の欄を、口頭で説明できるようにする |
| 当社のサービスを、どう見ているか | プロダクトへの関心と理解 | 実際に使い、改善案を1つ持つ |
| 受託や客先常駐の経験を、どう生かせるか | 経験の置き換えができるか | 複数の現場で共通して学んだことを1つ決める |
| 入社後、伸ばしたいことは何か | 学習の方向と、会社との合い方 | 直近で学んだことを、具体的な成果物で示す |
質問の全体像はエンジニアの面接でよく聞かれる質問と答え方に、技術面接でAIを使えるかどうかはコーディングテストでAI使用OKの企業は何を見る?にまとめています。
求人の見分け方:「自社開発」の文字だけで決めない
「自社開発」という言葉が指す範囲は、会社ごとに違います。自社のサービスや製品を作る会社、事業会社の社内システムを作る部門、自社サービスと受託を併営する会社が、同じ言葉で書かれることがあります。
4つの働き方の違いは、新卒エンジニアの企業の選び方の表も参考になります。求人票や企業情報では、次の5点を見ます。
| 見る点 | どこで | 見方 |
|---|---|---|
| 自社のサービス・製品 | 求人票、企業サイト | サービス名、提供開始時期、料金、利用者が分かるか |
| 就業場所と変更の範囲 | 求人票 | 「客先」「会社の定める場所」とあれば、常駐の可能性を面接で聞く |
| 従事する業務と変更の範囲 | 求人票 | 担当するプロダクトが特定されているか |
| 雇用形態 | 求人票 | 派遣労働者として雇う場合は、その旨を示す決まり |
| 職場情報 | しょくばらぼ | 経験者採用などの職場情報を、企業が掲載しているか |
厚生労働省のリーフレットによると、2024年4月1日から、求人票や募集広告で「従事すべき業務の変更の範囲」と「就業場所の変更の範囲」を示す決まりになりました。派遣労働者として雇う場合は、「雇用形態:派遣労働者」と示す必要があります。
しょくばらぼは、厚生労働省が運営する、企業の職場情報を検索・比較できるサイトです。掲載は企業が自ら行うもので、掲載企業数は152,380件(2026年10月1日)です。
求人票に書かれていない条件は、面接で聞いてよいものです。リーフレットは、募集時に示しきれない条件は、原則として面接など最初に接触する時点までに明示されるとし、明らかになっていない条件がないか面接で確認することが大切としています。
面接の最後に聞く質問は、次の5つが使えます。
- 担当するプロダクトと、チームの人数・役割
- 優先順位は、誰が何を根拠に決めているか
- 1か月のリリース回数と、障害が起きたときの動き方
- 受託や客先での業務は、自社サービスの開発とどの割合か
- 入社後3か月の担当範囲と、評価の基準
入社後のずれも、数字が出ています。マイナビが2025年12月に、2025年に転職した正社員1,446人へ行った調査では、入社後に面接時の想定と違ったことの上位が、「必要とされるストレス耐性」(26.1%)と「自分と企業との相性」(23.9%)でした。
仕事の進め方や環境は、聞かないと分からない部分が残ります。1日の流れ、障害時の動き、意思決定の速さまで、具体的に聞きます。
応募先の探し方と、期間・年収の目安
転職経験者が使った応募の手段は、次のとおりです(レバテック、転職経験者1,648人、複数回答)。
- 転職エージェント:39.1%
- 掲載型の求人媒体:36.5%
- スカウト型の求人媒体:25.2%
- ハローワーク:18.3%
- リファラル:14.6%
自社開発に絞るなら、エージェントには、希望する企業の種類と、決める範囲を広げたいという軸を最初に伝えます。Zennの体験記の筆者は、エージェントを1社しか使わなかったことを振り返り、複数社で求人を比べるべきだったと書いています。
比べ方はITエンジニアにおすすめの転職エージェントに、面談から内定までの使い方は転職エージェントの使い方にまとめています。
期間は、3つの段階に分けて見積もります。
| 段階 | 目安 | 根拠 |
|---|---|---|
| 現職で経験を足す | 1つの成果が書けるまで。リリース1回や四半期など、区切りのよい単位で決める | 編集部の見立て |
| 転職を意識してから内定通知まで | 3か月未満が約7割。3か月〜半年未満が16.0%、半年〜1年未満が8.0%、1年以上が6.1% | マイナビ(2025年に転職した1,446人) |
| 内定から入社まで | 在職中に転職した人の平均が48.5日。1〜2か月が63.8% | マイナビ |
マイナビの数字は、2025年に転職した人への調査なので、活動を続けている人は含まれません。応募先を自社開発に絞ると受けられる企業が限られるため、3か月を超える側に入ることも見込んで、収入が途切れにくい在職中に進めます。
全体の進め方と、各段階の期間はエンジニアの転職の流れと期間に書いています。
年収の見方は、エンジニアが転職で年収を上げる方法で整理しています。厚生労働省の統計では、全産業の転職入職者のうち、賃金が増えた人は40.8%、減った人は31.0%でした(令和7年雇用動向調査)。
今日からできること
- 直近の案件を1つ選び、背景・担当・判断・結果を1行ずつ書く
- 「どこまで自分で決めたか」が書けない場合は、現職で足せる経験を表から1つ選び、所属会社の担当者に相談する
- 「なぜ自社開発か」を、経験・学び・広げたいことの3文で書く
- 気になる求人を3件選び、就業場所と業務の変更の範囲を読んで、面接で聞くことをメモする
- 転職エージェントの面談を1〜2社予約し、自社開発に絞りたいことと、棚卸しした経験を伝える



