新卒エンジニアの企業選びは、「自社開発か、受託か」という名前だけで決めると、入社後にずれが出ます。新人が最初の1年に何を任されるか、どう育てられるか、配属がどう決まるかの3点を、働き方ごとの違いと合わせて見ていきます。
ここでは、4つの働き方の違い、採用する側の事情、研修・配属・技術の見分け方、説明会や面接で聞く質問を、表とチェックリストで示します。
4つの働き方を、仕事・お金・配属で比べる
IT企業の仕事は、売上がどこから来るかで、日々の仕事の形が変わります。新卒が入る代表的な4つの働き方を、次の表で比べます。
| 働き方 | 売上の出どころ | 日々の仕事 | 新人が触る技術 | 見どころ |
|---|---|---|---|---|
| 自社開発 | 自社のサービスや製品の利用料、広告 | 1つのプロダクトを継続して改善する。企画や運用が近い | プロダクトで決まっている | 新人の担当範囲と、レビューの体制 |
| 受託開発(SIer・受託開発会社) | 顧客から受け取る開発費用 | 顧客ごとのプロジェクトで、要件定義・設計・開発・テストの工程を担う | 案件で変わる | 最初に担当する工程と、案件の移り変わり |
| SES(客先常駐) | 技術者が客先で働く時間への対価。準委任契約の形が多い | 客先のプロジェクトの一員として働く | 常駐先で決まる | 案件の選び方、日々の指示を誰が出すか、自社での育成 |
| 社内SE(IT企業以外の情報システム部門) | IT以外の本業(製造・小売・金融など)の収益 | 社内の業務システムの運用・改善、ベンダーへの発注管理 | 業務パッケージやクラウドなど | IT部門に直接配属されるか、業務部門を経由するか |
呼び名は、1社の中で混ざることがよくあります。自社サービスと受託の両方を持つ会社や、受託の中に客先常駐の案件がある会社もあるため、会社の名前ではなく、新人の配属先で見ます。
IPAがDX白書2023に追記した日米比較では、情報処理・通信に携わる人材のうちIT企業に所属する割合は、日本が73.6%(2020年の国勢調査)、米国が35.1%(2021年の職業別雇用・賃金統計)でした。
IT企業には、受託開発・SIer・SES・自社開発のどれも含まれます。IT企業以外に所属する人は日本で26.4%で、社内SEはその中に入ります。
採用する側は、新卒の採用で何に困っているか
企業選びでは、採用する会社の事情を知っておくと、説明会や面接で何を聞けばよいかが分かります。
レバテックのIT人材白書2026(2025年11月、新卒エンジニア採用を実施する企業の採用担当者484名)で、新卒エンジニア採用の課題として挙がったのは、次のとおりです。
- 求めるスキルを持つ人材の不足:51.2%
- 採用コストの増加:37.0%
- 応募者数の不足:36.8%
- 内定辞退率の高さ:30.4%
- 入社後の早期離職:20.0%
採用側は、人材の不足と並んで、内定辞退と早期離職にも悩んでいます。入社後のずれは、学生だけでなく、採用した会社にとっても失敗です。
同じ調査で、選考要素にプログラミングスキルを含む企業は、全体で73.8%でした。働き方に近い業態別では、次のとおりです。
| 業態(回答数) | 含む | 含まない |
|---|---|---|
| コンサルティング(72) | 91.7% | 8.3% |
| IT関連の事業会社(157) | 76.4% | 23.6% |
| 非IT関連の事業会社(117) | 72.6% | 27.4% |
| システム開発関連会社(116) | 64.7% | 35.3% |
システム開発関連会社(SIer・SES・派遣・受託開発など)は、プログラミングスキルを選考に含まない企業の割合が最も高く、ほかの業態より経験を問わない企業が多い傾向です。回答数は100件台のため、傾向として見ます。
マイナビの2027年卒企業新卒採用予定調査(1,579社、2026年1〜2月)では、AI時代に新卒採用を行う理由の1位が「若手人材の長期育成を重視しているため」で、65.1%でした。
新卒を長く育てる前提で採る会社が多いため、育成の仕組みを聞くことは、企業の考えと同じ方向の質問になります。運営会社の見方では、採用担当者は、入社後を具体的に考えている学生ほど、一緒に働く姿を想像しやすくなります。
譲れない3つを、先に決める
企業を比べる前に、自分が譲れない条件を3つに絞ります。先輩エンジニアの選び方と、会社を辞めた若手の理由を並べると、見落としやすい項目が見えてきます。
レバテックのIT人材白書2026では、20〜59歳のIT人材3,000名のうち、新卒でエンジニアになった1,775名が、就活で企業を選ぶときに重視した点を答えています。「業務内容」が33.2%、「事業内容」が31.9%、「初任給の額」が23.0%で上位でした。
「研修・教育制度」は10.1%、「残業時間」は3.6%です。
厚生労働省の令和5年若年者雇用実態調査では、初めて勤務した会社をやめた理由(3つまで回答)の上位が、「労働時間・休日・休暇の条件がよくなかった」の28.5%、「人間関係がよくなかった」の26.4%、「賃金の条件がよくなかった」の21.8%、「仕事が自分に合わない」の21.7%でした。調査は15〜34歳の若年労働者を対象に、2023年11月に行われています。
項目の立て方も対象も違う2つの調査なので、単純には比べられません。それでも、選ぶときに重視された項目と、辞めた理由の上位は、別の項目です。
労働時間・休日と人間関係は、選ぶ段階で確かめる項目に入れます。
レバテックの27卒調査(エンジニア職志望144名、2025年12月)では、企業を選ぶうえで譲れない条件として「完全週休2日制」が42.4%、「年間休日の多さ」が35.4%でした。
転職を視野に入れる学生の理由は、「入社する企業が自分に合うか分からないから」と「給与アップを狙いたいから」が31.1%で同率1位です。入社前に合うかどうかを確かめたい気持ちが表れています。
譲れない3つは、次の8項目から選びます。
| 項目 | 確かめられる場所 |
|---|---|
| 仕事の内容 | 募集職種の説明、若手社員の話 |
| 技術・成長 | 研修の内容、新人が1年目に触る技術 |
| 育成体制 | 研修の有無と内容、メンター制度、OJTの運用 |
| 配属 | 伝達の時期、希望の出し方、昨年の実績 |
| 労働時間・休日 | 月平均の所定外労働時間、有給休暇の平均取得日数、年間休日 |
| 人間関係・雰囲気 | 若手社員との面談、インターン |
| 給与 | 初任給の内訳。固定残業代の有無と時間 |
| 勤務地・働き方 | 募集要項、配属の勤務地 |
8項目のうち、譲れない3つに◎、あれば嬉しい3つに○、残りに△をつけます。◎の項目を、企業ごとの比較表の最初の列に置きます。
研修と育成体制:言葉を「中身」に変えて聞く
募集要項の「充実した研修」「未経験歓迎」は、中身が分からない言葉です。期間、担当者、実績の3つに置き換えて聞きます。
厚生労働省の令和5年若年者雇用実態調査(事業所調査、有効回答7,867事業所)では、新規学卒で採用した若年正社員を育成する方法として、OJTが65.9%、OFF-JT(業務の外で行う教育訓練)が37.5%、自己啓発への支援が33.2%でした。全産業の数字です。
OJTを行う事業所のほうがOFF-JTより多いため、研修のあとのOJTがどう運用されるかが、育成の実質になります。
求人票や説明会の言葉は、次のように中身へ置き換えて聞きます。
| 言葉 | 聞く中身 |
|---|---|
| 「充実した研修」 | 期間、1日のうち手を動かす時間、講師は誰か |
| 「OJTで育てます」 | 付く先輩は専任か兼務か、1人で何人の新人を見るか |
| 「メンター制度」 | 面談の頻度、同じチームの先輩か別のチームの先輩か |
| 「資格取得支援」 | 受験料や講座の費用負担の範囲、対象の資格、勤務時間内に学べるか |
| 「未経験歓迎」 | 入社時にどこまでを前提とするか、研修のスタート地点 |
数字で確かめる方法もあります。厚生労働省は、新卒を募集する企業が提供する職場情報を、次の3つに分けています。
| 類型 | 項目 |
|---|---|
| 募集・採用の状況 | 直近3事業年度の新卒採用者数・離職者数、男女別の採用者数、平均勤続年数 |
| 職業能力の開発・向上 | 研修の有無と内容、自己啓発支援の有無と内容、メンター制度の有無、キャリアコンサルティング制度の有無と内容、社内検定等の制度の有無と内容 |
| 職場定着の取組 | 前事業年度の月平均所定外労働時間、有給休暇の平均取得日数、育児休業の取得対象者数・取得者数、役員・管理的地位にある者に占める女性の割合 |
公表されていない場合は、応募者が企業に求めることができます。説明会や面接では、希望する旨を口頭で伝えれば足りると、厚生労働省は説明しています。
対象は、新卒者等の募集の対象になっている場合です。提供された情報は、SNSへの投稿などに転用しないよう、適切に扱います。
企業が公表している数字は、厚生労働省の「しょくばらぼ」でも調べられます。勤務実態や採用状況などの職場情報を検索・比較できるサイトで、「新卒向け」のタグがあります。
採用者数と離職者数は、人数とセットで見ます。採用者が数人の会社では、1人の離職で割合が大きく動くためです。
全体の目安として、厚生労働省の公表では、令和4年3月に大学を卒業して就職した人の3年以内の離職率は33.8%でした。企業の数字と同じ定義とは限らないため、期間と採用区分が同じ数字かを、聞いて確かめます。
配属は、いつ・誰が・何を見て決めるか
配属は、入社後の仕事を決める最大の分かれ道です。配属先を新入社員に伝える時期は、会社によって大きく違います。
就職みらい研究所の調査(2024年卒の採用業務に就いた、従業員100人以上の企業の人事担当者812人、2024年2月)では、配属先を伝えた時期は、内定承諾前が34.6%、内定承諾後から入社前が24.4%、入社時以降が41.1%でした。
HR総研が2023年11〜12月に2024年卒の採用を行った企業180件へ聞いた調査では、入社式以前に伝える企業が54%です。
調査の対象と聞き方が違うため数字は異なりますが、入社前に伝える企業と入社後に伝える企業の両方が、それぞれ相当数あります。
就職みらい研究所の調査を伝えた報道では、人事担当者が配属先を確約しにくい理由として、次の点が挙がっていました。
- 学生の適性を見極めるのが難しい
- 希望が1つの職種や勤務地に集中した場合の対応が難しい
- 各部署との調整が難しい
- 確約すると、希望と合わない場合に内定辞退につながる懸念がある
配属を決める側にも事情があることが分かります。配属の決まり方は、次の3つの型に分けて聞くと整理できます。
- 職種や配属先を決めて採用する(職種別採用など)
- 入社後の研修や適性を見て、本人の希望と人員の状況から決める
- 仮配属のあと、一定期間を置いて本配属を決める
受託開発やSESでは、配属が「案件のアサイン」になることが多くなります。案件を選ぶ余地があるか、1つの案件の期間はどれくらいかを聞きます。
客先で働く場合は、日々の指示を誰が出すかも確かめます。東京労働局は、書類上は請負(準委任を含む)の契約でも、実態が労働者派遣であるものを偽装請負と呼び、違法だと説明しています。
東京労働局は、発注者から直接、業務の指示や命令をされる場合は、偽装請負である可能性が高いとしています。日々の指示を自社の責任者が出す体制かどうかは、聞いて確かめられます。
配属については、次の4つを聞きます。
- 配属先を伝える時期と、希望の出し方
- 昨年の新人のうち、希望どおりだった人の割合
- 希望が通らなかった場合の相談先と、配属後に異動できる条件
- 客先で働く場合の、新人が常駐する割合と、日々の指示を出す人
技術スタックは、言語名より「新人が触る場面」で見る
募集要項に書かれた言語やフレームワークは、会社が使っている技術の一覧で、新人が最初に触る技術とは限りません。「新人が1年目に触る技術」と「技術を選ぶのは誰か」を、聞いて確かめます。
働き方による傾向もあります。一般に、自社開発は技術が固定的で、同じ技術を深く使い込めます。
受託開発やSESは案件で技術が変わるため、幅が広がる一方で、専門を絞りにくいことがあります。社内SEは、プログラミングより、業務の知識とベンダーとのやりとりの比重が大きい仕事が多くなります。
新卒では、技術の流行より、基礎が身につく環境かどうかで見ます。次の4つが、確かめる手がかりになります。
- 新人のコードでも、レビューを受けられるか
- テストを書く習慣と、障害の振り返りの場があるか
- 本番に出すまでの手順に、新人が関われるか
- 技術の選定や変更を、誰がどう決めているか
AIの扱いも、今は確かめる項目に入ります。レバテックの27卒調査では、業務でAIの使用が認められていることが企業の志望度に影響するかを聞いたところ、「大幅に上がる」が16.7%、「少し上がる」が27.1%で、合わせて約44%でした。
業務でAIを使ってよいか、使う場合にAIが書いたコードのレビューをどうしているかを、聞きます。AIとレビューの考え方は、新卒エンジニアの就活はAIでどう変わったかに書いています。
説明会・面接で聞く質問10個
質問は、一度に聞かず、場面で分けると聞きやすくなります。
- 説明会のあと:事実で答えられる質問を1〜2個
- 面接の逆質問:考え方を聞く質問を3個程度
- 内定後の面談:条件や数字に関わる質問
聞き方は、否定から入らず、目的から入ります。「研修は少ないのですか」ではなく、「入社1年目の流れを知りたい」と伝えます。
| 知りたいこと | 聞き方の例 | 答えで見る点 |
|---|---|---|
| 新人の最初の仕事 | 入社1年目の方が最初に担当する仕事を、具体的に教えてください | 作業名や成果物で答えられるか |
| 研修の中身 | 研修の期間と、1日のうち手を動かす時間はどれくらいですか | 時間数と演習の割合 |
| 研修のあと | 研修後に付く先輩は、専任ですか、兼務ですか | 担当と、質問できる頻度 |
| 独り立ちの時期 | 昨年入社の方が、1人で担当を持つまでにかかった期間は | 実例で答えられるか |
| 配属の決め方 | 配属の希望はいつ、どのように出せますか。昨年は何割が希望どおりでしたか | 割合を答えられるか。通らなかった場合の扱い |
| 客先での働き方 | 新人が客先で働く割合と、日々の指示を出す人を教えてください | 自社の責任者で答えるか |
| 技術の選び方 | 新人が1年目に触る技術と、技術を選ぶ人を教えてください | 技術を変える仕組みがあるか |
| AIの扱い | 開発でのAI利用のルールと、AIが書いたコードのレビュー方法は | ルールが決まっているか |
| 定着の状況 | 直近3事業年度の新卒の採用者数と離職者数を教えてください | 数字をすぐ示せるか |
| 労働時間・休日 | 月平均の所定外労働時間と、有給休暇の平均取得日数は | 公表されている職場情報と合っているか |
答えが曖昧でも、1回で判断しません。OB・OG訪問やインターンで、同じ質問を重ねて確かめます。
3社を並べて決める手順
レバテックの27卒調査では、エンジニア職志望の学生が就職先を決めるまでに受けたい企業数は、「1〜4社」が34.0%、「5〜8社」が34.0%でした。約7割が8社以内で決めたいと考えています。
そのため、比較表は5〜8社分あれば足ります。次の順で進めます。
- 譲れない3つを書き出す。30分を目安にします
- 志望企業を、4つの働き方のどれに近いかでラベルづけする
- しょくばらぼや企業の公表情報で数字を拾い、比較表に入れる
- 説明会やOB訪問で、質問表の答えを比較表に足していく
- ◎の項目で並べ、迷う2社は、インターンや社員との面談で残りを確かめる
就活サービスの使い分けは、新卒エンジニア向け就活サービス6つの比較にまとめています。選考の書類は、エンジニア志望のES・ガクチカの書き方が手がかりになります。
会社の名前ではなく、自分が1年目に何をして、誰に育てられ、どこに配属されるかを、数字と実例で説明できる会社かどうかで選びます。



