新卒エンジニアを採用している企業の9割超が採用人数を前年と同じか増やしており、紹介会社経由のソフトウェア開発職の就職件数も、直近の公表値では増えています。
一方で、AIが新人の最初の仕事を変えつつあることを示す調査は複数あり、入口は「狭くなった」というより「入るときに求められる水準と、育つ場の形が変わった」と読むほうが、いまの数字には合っています。
新卒と未経験の中途採用をまとめて「ジュニア」と呼びます。
「いらない」の根拠は、まず米国の数字にある
話の出どころになっているのは、主に次の3つです。
SignalFire(米国のベンチャーキャピタル)の2026年6月公表のレポート。 新卒・初級の採用は、2019年と比べて、大手テック企業(Alphabet、Metaなど12社)で約65%、初期段階のスタートアップで約76%減ったとしています。
一方、同じレポートでエンジニア全体の採用は、大手テック企業で2019年比11%減、初期段階のスタートアップでは7%増です。減っているのは、エンジニア全体より新卒・初級の枠です。
スタンフォード大学デジタルエコノミーラボの論文。 米国の給与データ(ADP)を2026年6月分まで使い、22〜25歳の雇用が、AIに影響されやすい職種では、そうでない職種と比べて19%低いと報告しています。経験の長い人には同じ差が出ていません。
Gartnerの調査。 2025年第4四半期に人事責任者110人へ聞き、22%が、自社のビジネス部門リーダーの少なくとも1人がAI自動化を理由に新人レベルの採用を止めたと答えています。
どれも無視できない数字ですが、そのまま日本に当てはめるには条件の違いがあります。SignalFireは大手テック12社とスタートアップが対象で、日本の企業全体ではありません。
スタンフォードの論文は、書いた本人たちが因果の推定ではなく早期の記述的な指標と位置づけていて、学歴を考慮すると差は小さくなるとも書いています。Gartnerの22%は、エンジニアだけでなく全職種の新人採用の話で、対象の国や業種は発表文に書かれていません。
つまり、米国で初級の採用が細っているという指摘には根拠があります。ただ、それが日本のジュニアエンジニアにも同じ形で起きているかは、別に確かめる必要があります。
国内の統計と調査は何を示しているか
| 数字 | 対象と時期 | 分かること |
|---|---|---|
| 有料職業紹介の常用就職(ソフトウェア開発)39,780件、前年度比+11.4% | 厚生労働省の令和6年度報告(速報、2026年3月31日公表)。民間の有料職業紹介事業所の実績 | 紹介会社経由の就職は増えている |
| 新卒ITエンジニアの就職者 約6.1万人、前年比+0.7% | 2025年3月卒。文部科学省「学校基本調査」をヒューマンリソシアが集計(2026年3月公表)。統計上の職業区分(情報処理・通信技術者)での集計 | 4年連続で増加。ただし伸びは鈍化している |
| 新卒エンジニア採用人数 増加44.2%、変化なし47.1%、減少8.3% | レバテック「IT人材白書2026」。2025年11月、26卒の新卒エンジニア採用を実施している企業484社 | 実施している企業の9割超が維持か拡大 |
| 採用予定数を減らした理由「AIによる業務代替・業務効率化」6.4% | マイナビ「2027年卒 企業新卒採用活動調査」。2026年6月、全業種3,590社のうち採用予定数を減らした企業 | 最多は「前年に採用でき充足」の53.9%で、AIを理由にした企業は少数 |
| 2027年卒の求人総数 74.8万人(前年比-2.2%)、うち情報通信業 3.6万人(-2.5%) | リクルートワークス研究所。2026年1〜3月、従業員5人以上の民間企業8,200社。情報通信業の前年値は遡及推計の参考値で、エンジニア職だけの数字ではない | 情報通信業の新卒求人は、全体と同じ程度の減り方 |
令和5年度の報告から職業区分が改訂されたため、「情報処理・通信技術者」は令和4年度以前と単純に比べられません。
令和4年度の報告では、この区分の常用就職は前年度の44,207件から55,093件へ、24.6%増えていました。
令和5年度以降は区分が「ソフトウェア開発」と「ソフトウェア開発を除く」に分かれ、令和6年度は後者も26,882件と、11.5%増えています。どちらの年も増えていますが、二つの時期をつないだ線は引けません。
リクルートワークス研究所は、2027年卒の求人が減った背景を、前年の採用実績が予定を下回った企業が採用予定数を減らしたことや、中途採用の割合を増やす意向があることとして説明しています。
倍率の数字は、未経験の入口の広さを測っていない
「エンジニアの求人倍率は12倍」という数字を見かけます。
dodaの転職求人倍率で、エンジニア(IT・通信)は2026年8月に12.04倍、2025年4月は10.94倍、2024年4月は11.5倍でした。全体は2026年8月で2.86倍です。
この数字から「未経験でも入りやすい」とは読めません。dodaは、倍率を「求人数(採用予定人員)÷転職希望者数」と定義し、転職希望者の職種は、希望する職種ではなく直近の仕事の職種だと説明しています。
つまり分母は、いまエンジニアとして働いていて転職を考える人です。他の職種からエンジニアを目指す人は、分母に入っていません。
新卒の「求人倍率1.62倍」も同じです。これは大卒全体の数字(2026年卒は1.66倍)です。
数字の定義を見ると、「倍率が高い=ジュニアの入口が広い」という読み方は成り立たないことが分かります。
入口は狭くなったのか、形が変わったのか
枠の数は、国内の公開データでは減ったと言えません。紹介会社経由の就職も、新卒の就職者数も、企業の採用人数の計画も、横ばいから増加です。
新卒エンジニアを採用している企業でも、約4社に1社は2025年11月時点で採用目標を下回る見込みでした(エントリー目標を上回ったが採用人数は下回る見込み14.3%、エントリー目標も採用人数も下回る見込み9.7%)。企業は採りたくても採れていません。
仕事の中身と、求められる水準は動いています。同じレバテックの白書で、IT人材3,000人(20〜59歳)のうち「AIに業務を代替される可能性がある」と答えた2,665人に代替されると思う業務を聞くと、「実装(コーディング)」が44.2%、「テストケース作成」が37.8%でした。
どちらも、新人が最初に任されやすい仕事と重なります。選考では、新卒採用を実施する企業の73.8%がプログラミングスキルを選考要素に含み、そのうち77.6%が、過去3年以内に求める水準を引き上げたと答えています。
学生の側も、27卒のエンジニア志望(144人、2025年12月調査)の70.8%が就活でAIを使っていて、前年度の47.2%から増えています。
新人が実装やテストで経験を積む、これまでの育ち方は、AIによって薄くなる可能性があります。
採用側は、いまジュニアに何を求めているか
新卒エンジニア採用の課題で最も多かったのは「求めるスキルを持つ人材の不足」で51.2%(484社)でした。「応募者数の不足」は36.8%です。
未経験者の採用を始めた企業(284社)でも、始めた理由の最多は「経験者採用が難しくなっているから」の46.5%です。ジュニアが「いらない」のではなく、採用側が欲しい水準のジュニアを見つけにくい、という構図です。
AIを導入した企業にIT人材の増減を聞いた別の設問では、増やす予定が68.6%、減らす予定が5.8%でした(増減を検討中、または今後検討予定の570社)。
IPAの調査(日本企業1,799社、2026年4〜6月)でも、AIを導入または試験利用している企業は58.0%ある一方で、DXを進める人材が量・質ともに足りないと答えた企業は85.5%と88.8%です(DXに取り組む企業)。AIが入るほど、使いこなして運用する人が要る、という状況です。
運営会社は、企業の採用支援と、AIを使った自社プロダクトの開発・運用の両方を行っています。その現場で、ジュニアの応募書類や面談を見るときに確認しているのは、AIを使ったかどうかではなく、AIの出力を自分で確かめたかどうかです。
自社でAIと一緒にプロダクトを作っていても、動くコードはすぐに出てきます。
本番で起きた問題の多くは、コードの外にありました。たとえば次のような例です。
- データの取得件数が、設定の既定値で黙って切り捨てられていた。除外リストに取りこぼしが出て、同じ宛先に二重送信が起きた
- 開発環境は管理者権限で何でも通るため、権限の不備に本番まで気づけなかった
- 数百件の抽出をAIに任せたところ、取りこぼしと、書かれていない内容の補完が混ざっていた
どれも、AIは書けても、件数で検証する、本物の権限で試す、機械で突き合わせる、という確認は人が設計しないと入りません。ジュニアに期待するのは、最初からこの設計ができることではなく、やり方を教われば自分で確かめられることです。
学び方の面でも、AIへの任せ方で差が出ます。Anthropicの実験(ソフトウェアエンジニア52人、新しいライブラリを学ぶ課題)では、AIを使った群の理解度クイズの平均が50%、使わなかった群が67%で、特にデバッグの問題で差が大きく出ました。
コードの生成を全面的にAIに任せた人は平均40%未満、概念の質問だけをして自分で実装した人は65%以上でした。
実験側は、使い方と成績の関連は示したが、因果の証明ではないと書いています。それでも、AIで書けることと、分かっていることは別だという点は、採用側の実感とも合っています。
今日からできること
応募先を、枠の考え方で分ける。 「ジュニア歓迎」「ポテンシャル採用」と書いている企業と、即戦力を前提にする企業では、求められる水準が違います。国内の採用人数は減っていないので、前者に絞って探す価値はあります。
AIで作ったものは、説明できる形にする。 何をAIに頼み、何を自分で決め、どこで確かめ、何を直したか。
この4点が1枚に書ければ、書類でも面接でも使えます。完成品の見た目は、AIを使えば似たものになりやすいので、判断の記録のほうが差になります。
AIには「答え」でなく「理由」を聞く。 生成させたコードは、動く理由と壊れる条件を自分の言葉で説明できるまで確かめます。Anthropicの実験で成績が良かった使い方は、まさにこれに近いものでした。
実務に近い場所に早く入る。 27卒のエンジニア志望学生の約8割が、1日以上のインターンシップに参加しています。新人が育つ仕事が減るなら、育つ場を自分で取りにいく手があります。
新卒でなく未経験から目指す人は、入口が残っている職種から入る道も比べる。 社内SE、QA・テスト、サポート、インフラ運用など、入りやすさと次に進める先が違います。別の記事で比べています。
分かっているのは、国内の枠は今のところ減っておらず、新人の最初の仕事と選考で見られる水準が変わっている、という二点です。



